眼科学
この眼科書は『医科全書』眼科篇(臨眼43巻5号参照)の異版と思われるが、その編集者、出版人、発行所、刊記等の記載はなく明確ではない。
本書には三種類の別摺本があるが、仮にこれをA、B、 C、とすると、Aにはその扉に“発賣禁"と印刷され、Bには以下の様な例言が付されている。
「この書嚢二同学者ノ鉛版二上スルアリト雖モ如何セン其部数二限アルヲ故二余輩今回同志者卜相謀り、更二加フルニ泰西諸家著ス處ノ書中ヨリ眼病論二切緊ナル図書ヲ抜萃シ以テ解剖及ビ生理上ノ変化ヲ詳論シ終二病理上ノ変態ヲ載セ同学者一般筆記ノ労ヲ省カンカ為メ再ヒ之ヲ鐫エニ付シ普ク同学有志輩二分頒セントス観者夫レ之レヲ諒セヨ。明治十三年二月」
『医科全書』眼科篇が出版されたのは明治12年10月から同14年8月までの間であり、本書の例言の記述が明治13年2月となっているところより、本書の出版は『医科全書』眼科篇とほぼ同年代のことと思われる。
次に本書の内容を別摺の三種類(A、B、C)の眼科書の目次より抄記すると以下の通りである。
眼科学(A) | |||
誘導篇p.1-44 | |||
眼科学p.1-431 | |||
眼瞼病論 涙液諸器病論 結膜諸病論 視器官能ノ検査法 角膜病論 虹彩病論 水晶 体病論 手術論 視神経諸病 眼窩内諸病 眼筋諸病 交感性眼焮衝 硝子体諸病 鞏 膜諸病 網膜諸病 |
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眼病論病理的上ノ図式 |
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図1~39(図38欠)p.1-14 | |||
眼科書 巻之1. P.1-88 | |||
屈折及び「アコモダチー」の諸病論 | |||
第1章―第229章 | |||
斜視p1-25 眼鏡論 第1章―第18章、p l -10 検眼鏡用法論p 11-14 眼鏡用法p15-23 健康眼診察法ヲ論スp.23-32 眼鏡ヲ用テ屈折カヲ知ノ法p32-41 透明体屈折カノ検査p.41-47 硝子体ノ曇暗二又種々アリp47-60 網膜ノ変化p61-68 散大斜視p.69-103 |
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眼科学(B) | |||
眼病論目次 | |||
〔I〕甲符号ノ部p.1-108 | |||
視官器解剖 誘導篇 眼科学各論 眼瞼病論 涙液諸器病論 | |||
〔Ⅱ〕○符号ノ部p.1-145 | |||
結膜諸病論 視器官能検査法 角膜病論 虹彩病論 | |||
〔Ⅲ〕Z符号ノ部p.1-161 | |||
水晶体病論 手術論 毛様突起及詠絡膜諸病 視神経諸病 眼窩内諸病 眼筋諸病 硝子体諸病 |
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〔Ⅳ〕丙符号ノ部p.1-220 | |||
鞏膜諸病 網膜諸病 屈折及ビ調節機諸病論(第1章―第228章) 屈折病 |
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近視眼 遠視眼 乱視 | |||
調節機病論 | |||
老視眼 調節機麻痺 調節機痙攣 |
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復視ノ論 | |||
斜視眼 眼鏡論 検眼鏡用法論 検眼鏡用法 健康眼ノ診察法ヲ論ス 眼底ノ水平 ヲ論ス 眼鏡ヲ用テ屈折カヲ知ル法 「アスチクマチスムス」ノ検査法 透明体屈折カノ検査 斜メニ光線ヲ照シテ眼中ヲ検スル術 脉絡膜変化 網膜ノ変化 散大斜視 |
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眼病論生理的上ノ図式 図1-2 1、p.1-19 | |||
眼病論解剖的上ノ図式 図1-14、p.1-14 | |||
眼病論病理的上ノ図式 図15-76、p.1-17 | |||
眼科学(C)p.1-638 | |||
眼科学目次 視官器解剖 誘導篇 眼科学各論.眼瞼病論 涙液諸器病論 結膜諸病 視器官能検 |
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眼病論解剖的上ノ図式 図1-7 | |||
眼病論病理的上ノ図式 図8-46 |
以上本書の別摺三種を比べてみると、各書の扉、頁の打ち方、図式掲載方等異なり、Aには印刷ミスの箇処も多く、扉(左下)には“發賣禁"の刷込みがあり、また、Bにのみ例言が掲載されている。
つまり本書は東京大学医学部教授、独逸国医宮、 ドクトル・シュルツェ氏請義をまとめた(三瀦謙三、宇野朗筆訳)『医科全書』眼科篇に西洋諸家の著書中より眼病論に欠くことのできない部分、例えば眼鏡論、検眼鏡用法論等を加え、さらに眼病論解剖、病理、生理等の図式を『海部満氏解剖図』等から採用して『眼科学』と云う一書に編集出版したもので、眼科学を勉強しようとする有志に分頒するため限られた部数が出版された眼科書と解される。
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図1 『眼科学』(A)の扉 発売禁の理由は不明 |
図2 『眼科学』(B)の扉 | 図3 『眼科学』(C)の扉 |
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図4 『眼科学』(B)の表紙裏 マーブルが美しい |
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図5 『眼科学』(C)所載の例言 |
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図6 『眼科学』(A)印面空白部分 |
1989年5月 (中泉・中泉・齋藤) |