お灸の作用 (四 )防病保健
隋代の『諸病源候論・小児雑病諸疾』には「河洛間(黄河~洛河;現在の河南省)の土地は寒く、子供が引き付けの病(発作性の痙攣)になりやすい。そこで俗に、子供が生まれて三日目に逆灸して防疫する。」と書いてあります。逆灸とは、病気になる前から、予防として養生のために行うお灸です。
また唐代の孫思邈は、呉蜀(現在の江蘇・浙江省と四川省)の地へ派遣される役人は、身体の2~3個所へ常にお灸をすることで、風土病・伝染病の毒気から身を守る、という内容を記載しています(『備急千金要方・鍼灸上』)。
『扁鵲心書・須識扶陽』には、「病気でない時に、常日頃「関元」、「気海」、「命門」、「中脘」にお灸をしておけば、長命を得るとまでは言わずとも、百年の寿命を保つことが出来るだろうと書かれています。百歳でも充分長命と言えると思いますが、昔の人の考える長命とは、一体どれぐらいだったのでしょうか。
『医説・鍼灸』には、「足三里」へのお灸が病気の予防と健康の保持に有効だと書かれています。「足三里」といえば、松尾芭蕉が「奥の細道」の冒頭で、「股引の破れをづづり、笠の緒付けかへて、三里に灸すゆるより、松島の月まづ心にかかりて、・・・」と書いていますが、この「三里に灸」というのは、まさに「足三里」にお灸をして、長距離の徒歩の旅の準備をしたということだと思われます。これも予防的なお灸の好例です。
現代中国でいわれる「保健灸」も病気にならないうちにお灸をすることで、「正気」(体が持っている環境の変化に対する調節能力と疾病に対する防衛能力)を呼び醒まし、抵抗力を増し、精力を充実させて、健康で長生き出来るようにすることなのです。
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